はじめに
任せたのに、思ったように動いてくれない。
そんな経験は、誰しも一度はあるのではないでしょうか。
私自身も、チームの中で誰かに役割を渡したときに、
「この温度差はなんなんだろう?」と戸惑ったことがあります。
今回は、PM理論というリーダーシップの考え方を通して、
相手との違い、自分のスタンス、そして“任せ方”のヒントを探ってみます。
PM理論とは何か?──リーダーシップを読み解く2軸

任せる時の“温度差”は、実はリーダーシップのタイプの違いから来ていることもあります。
リーダーシップには、人を引っ張っていく力と、人間関係を整える力の両方が求められます。
この2つの力のバランスを見える化したのが、PM理論(Performance × Maintenance理論)です。
PM理論は、日本の社会心理学者・三隅二不二(みすみ じゅうじ)によって1950年代に提唱されました。
三隅氏は、当時のリーダーシップ理論に見られがちだった「成果重視」一辺倒の考え方に疑問を持ち、
「成果(P機能)」と「人間関係の維持(M機能)」の両面からリーダーのあり方を整理するというアプローチを打ち出しました。
PM理論では、リーダーシップを次の2軸で捉えます。
- P機能(Performance機能):目標を達成し、成果を出すために必要な行動や意識
- M機能(Maintenance機能):チームの人間関係や信頼関係を保ち、心地よく動ける状態をつくる力
たとえば、明確な目標を設定してぐいぐい引っ張っていく上司はP機能が高め。
一方で、メンバーの気持ちに配慮して、チームの空気を保ちながら進める上司はM機能が高いといえます。
このPとMの強弱の組み合わせにより、リーダーは以下の4タイプに分類されます。
| タイプ | 特徴 |
|---|---|
| PM型 | 成果も人間関係も重視する理想型。バランスが取れており、信頼も厚い |
| Pm型 | 成果優先。人間関係は二の次になりがちで、冷たい印象を与えることも |
| pM型 | 人間関係重視。メンバーに寄り添うが、目標達成への推進力に欠けることも |
| pm型 | 両方とも控えめ。指導力が弱く、チームがまとまりづらい傾向あり |
PM理論は、日本発のリーダーシップ理論として現在でも広く活用されています。
特に、いまのように多様な価値観や働き方が入り交じる職場環境において、
「自分や相手がどういうタイプか?」を見つめ直す視点として、とても有効です。
任せた相手が動いてくれないと感じたとき、
もしかするとそれは能力や熱意の問題ではなく、PとMの比重が違うだけかもしれません。
まずはその違いに気づくことが、よりよいチームづくりの一歩になります。
なぜ“任せたのに違和感”が生まれるのか?

「なぜ通じないの?」というモヤモヤには、タイプのズレが潜んでいます。
誰かに仕事や役割を任せたとき、「あれ、思ったのと違う…」と感じた経験はないでしょうか。
頼んだ内容はこなしてくれた。進行も問題なかった。
それなのに、どこか“軽く流されたような感覚”が残る──。
この違和感は、能力の問題ではなく、リーダーとメンバーの“リーダーシップタイプのズレ”から生まれていることがあります。
たとえば、P機能が高いリーダーは「目的達成のために、必要な行動は自分から取りにいくべき」という意識を持ちやすい傾向があります。
一方、相手がpm型(P・Mがともに控えめ)のようなタイプだと、「最低限やっておけばOK」「場が回っていればいいかな」というスタンスで行動することもあります。
実際に、私自身にもこんな出来事がありました。
ある業務改善の話し合いで、私は部下に「次はあなたから提案してみて」と声をかけました。
それに対する返答は、「〇〇さんが考えてるなら、それに合わせますよ」という一言。
その瞬間、「いや、そうじゃないんだよな」と、内心でため息が漏れました。
私が渡したかったのは、「指示を受ける立場」ではなく、「自分で考え、動く主体としてのチャンス」だったからです。
もちろん、その人なりに場の流れを乱さないように配慮してくれたのだと思います。
でも、相手の“受け取り方”と、私の“任せた意図”にズレがあったことで、リーダーとしての難しさを改めて感じました。
このモヤモヤをPM理論で整理すると、こうなります。
- 私:P機能が強めのPM型寄り。任せた以上は「意味や成果まで含めてやりきる」ことを重視
- 相手:pm型に近く、言われたことには対応するが、自発的な踏み込みは少ない
つまり、「任せる=責任と信頼」と考える私と、
「頼まれた部分だけやればOK」と考える相手との間に、リーダーシップスタイルの“ズレ”があったのです。
このズレは、どちらかが間違っているわけではありません。
ただ、“何を重視して動くか”が違うだけ。
しかしこの違いが、
- リーダーには「期待に応えてくれなかった」と映り、
- 相手には「ちゃんとやったのに、なぜ評価されないのか」という不満として現れやすくなります。
だからこそ、こうした“タイプの違いによる温度差”を知っておくことはとても大切です。
「任せたのに思い通りに動いてくれなかった」と感じる場面でも、
少しだけ客観的に捉え直せる視点が持てるようになります。
さらに、相手のスタイルに合わせて任せ方を変えていく工夫にもつながっていくのです。
自分のタイプに合った“任せ方”を考える

任せ方にも、実は“相性”があります。
PM理論をもとに、自分や相手のタイプを把握したら、次に考えたいのは「どう任せるか」です。
実は、自分のP・Mの傾向によって、“任せ方のクセ”や“やりとりのズレ”が起こりやすいポイントは変わってきます。
ここでは、PMタイプ別にありがちな任せ方の傾向と、その注意点を整理してみます。
PM型:理想を描きすぎてギャップに傷つくタイプ
- 任せるときのクセ:「きっとこうやってくれるだろう」と信じて、期待値を無意識に高く設定してしまう
- 注意点:自分の“こうあってほしい”が明文化されていないと、相手とのズレが拡大しやすい
- 任せ方のコツ:
- 相手の現在地(得意不得意・意欲)を見たうえで範囲設定をする
- 「ここは任せたい」「ここは一緒に考えたい」といった分担線引きを明示する
- 期待値は、明るく言語化して共有することで、お互いの安心感が増す
Pm型:成果重視で任せすぎる“突き放し”タイプ
- 任せるときのクセ:「やるべきことは見えてるよね」と判断し、細かなフォローを省略しがち
- 注意点:相手がpM・pm型の場合、必要な配慮が足りないと感じさせてしまう
- 任せ方のコツ:
- タスクと一緒に「なぜそれを任せるのか」も説明する
- 成果だけでなく、途中経過にも小さな声かけを意識する
pM型:気づかい過剰で任せきれないタイプ
- 任せるときのクセ:「相手がしんどくならないか」「嫌じゃないか」を気にしすぎて、
結果的に“任せたふり”になってしまうことも - 注意点:責任範囲があいまいになり、任された側も主体性を持ちづらくなる
- 任せ方のコツ:
- 「任せたい理由」「あなたに合ってると感じた点」など、信頼の言葉を添える
- フォローはしつつも、“判断は相手に任せる”シーンを意図的に作る
pm型:任せること自体に不安があるタイプ
- 任せるときのクセ:「自分でやった方が早い」「任せて失敗されたらどうしよう」となりやすい
- 注意点:任せないことで、部下・後輩の成長の芽をつぶしてしまうことも
- 任せ方のコツ:
- 小さなタスクから段階的に渡す
- 「これは練習と思ってやってみてくれる?」とハードルを下げる言葉を添える
- 成果よりも“やってみたこと自体”をしっかり評価する姿勢が大切
自分のタイプを理解すれば、“任せ方のクセ”に気づける
私自身も、PM型寄りの性質ゆえに、
「渡したんだから、当然ちゃんとやってくれるよね」と思い込みがちでした。
でもそれが、「任せたのに…」というがっかり感につながっていたと気づきました。
タイプの違いを知った今は、
「この人は成果に対して意識が強いタイプかな?」「関係性重視で動く人かな?」と考えたうえで、
任せ方や声かけのしかたを調整するようにしています。
リーダーとしての役割は、「すべてを自分でやること」ではなく、
“自分と違うタイプ”の人にも動いてもらえる関わり方を見つけていくことだと、今は思っています。
「任せて気づいた」実際のやりとりから学ぶ

リアルな会話や温度のズレに、たくさんのヒントがあります。
「この人、任せたらどうなるかな」──そう思って、あるチームメンバーに軽めの進行役をお願いしたことがありました。
その人は、いつも淡々としていて、まじめに仕事はこなすけれど、前に出るタイプではありません。
だからこそ、こうした“場を少しでも仕切ってもらう経験”が、本人の成長にもつながるのではと考えて、あえてお願いしたのです。
ただ、こちらの「一歩踏み出してくれたらいいな」という期待に対して、返ってきたのは──
「とりあえず最初は様子見というか、ファシリテーターにしとこうかなって。」
という、温度の低い一言でした。
それを聞いた瞬間、「あ、そういう感じなんだ」と少し気持ちが冷めてしまったのを覚えています。
“進行はするけれど、中身には関わらない”というスタンス。
もちろん、任せたこちらがすべて思い通りにさせる権利はないと分かっています。
けれど、「任された」ということに対して、もっと責任感や主体性を感じてくれると思っていたぶん、
「がっかり」に近い感情が残りました。
ここで振り返ってみると、私自身はPM型寄りのリーダーとして、
「役割を渡す=一定の成果や態度も含めて引き受けてくれること」を前提にしていたことに気づきます。
対して、そのメンバーはpm型に近く、「任された部分だけはこなすけど、それ以上は踏み込まない」タイプだったのでしょう。
それを知らずに任せた結果、
私の中では「なんとなくモヤモヤする」出来事として残ってしまいました。
でも、PM理論の視点から見直したことで、
「これは性格や意欲ではなく、“リーダーシップのタイプ差”だったんだ」と捉えなおすことができました。
実はその日、私は全体の時間に参加することができない予定だったため、
進行を任せる相手には“場を丸ごと預ける”ことになっていました。
それもあって、余計に“信頼したのに…”という気持ちが強くなってしまったのだと思います。
結果的には、場自体は問題なく回り、大きなトラブルは起きませんでした。
でも、「この人に任せてよかったのか」という問いは、しばらく残りました。
いま思えば、私の“任せる力”にも偏りがあったのかもしれません。
相手に合わせた声かけができていたか?
期待だけを押しつけていなかったか?
任せたあとに、サポートや感謝を示す余白を持てていたか?
そんな問いをもつことで、
「任せた側もまた、育てられているんだな」と感じるようになりました。
任せ方は、“型”を知ればもっと柔軟になれる

思い通りに動かないのは、自分のリーダーシップが足りないわけじゃない。
「任せたのに、なんか違う」
そう感じたとき、私たちはつい、「あの人はやる気がないのかな」とか「ちゃんと考えてくれていない」と、
相手の姿勢そのものに問題があるかのように受け取ってしまいがちです。
けれど、PM理論を知った今は、その見方が少し変わりました。
たとえば、私自身がPM型寄りだと自覚してからは、
「自分が思う“やりきる姿勢”が、万人にとって当たり前じゃないんだ」と気づけるようになりました。
むしろ、自分が少しPに寄りすぎていて、相手への期待値が高くなっていたことに、あとから気づくこともありました。
一方で、pm型のような控えめなタイプには、
「最低限やる」ことは苦にならなくても、「期待を超える何かをやってみる」という動き方はそもそも馴染みがない。
それに対してがっかりしても、お互いにとって健全な関係にはなれません。
だからこそ大事なのは、自分の“任せ方の型”と、相手の“動き方の型”を知っておくことです。
これは決して、「タイプが違うから分かり合えない」という話ではありません。
むしろ、「違うからこそ、どう補い合うか」を見つけるための前提です。
型を知ると、任せ方に“選択肢”が生まれる
- 自分がPM型寄りであれば、相手の現状に合わせた小さな任せ方から始めることができる
- pM型の人には、「あなたらしいやり方でいいよ」と背中を押す任せ方が向いているかもしれない
- pm型の人には、「まずは枠の中でやってみて」「困ったら相談してね」という安心感のある任せ方が必要かもしれない
型を知っていれば、任せ方は「ひとつの正解」ではなく、状況に合わせた“選択”になります。
「リーダー像」にも、型がある
自分自身のリーダーとしての立ち位置も、
「私はPが強いんだな」「Mをもう少し意識してみようかな」と、振り返るヒントになります。
強みを知って、それを活かす。
足りないところは、周りと補い合えばいい。
そう思えると、リーダーという立場も少し軽やかになる気がしています。
完璧じゃなくても、型を知っていれば、
リーダーは“育ち合える関係”をつくるナビゲーターになれる。
いまはそんなふうに感じています。
まとめ
任せるって、思っていたより難しい。
でもそれは、自分が真剣に向き合っているからこそ生まれる迷いでもあります。
任せ方に悩んだとき、自分と相手のタイプの違いをPM理論で見てみると、
「うまくいかなかったのは、誰かが悪いからじゃない」と気づけることがあります。
完璧なリーダーでなくてもいい。
自分の型を知って、相手の動き方を受け止められる
そんな柔らかさを持てたとき、任せることはもっと意味ある時間に変わっていくのだと思います。

